Story10 烏舘不動尊の霊水

 「ツル」とは「ヤマトタケル(日本武尊・倭建命)」が大和朝廷統一のため、鉄の利権を求めて東征した特別部隊のコードネームである。
 6月号で、そのような仮説を立てたが、いわき湯本にはそれを立証してくれるかのように、かつて「たたら鉄」を作っていた場所があった。たたらという鉄の製法は、映画「もののけ姫」に出てくるので、興味のある人はぜひご覧を。
 その場所は、県道いわき石川線から、湯の岳別所線に至る、当時は湯煙が立ち上っていただろう“神の山”、湯の岳のふもと。
 当時、日本には朝廷を名乗る国々がいくつもあった。青森県には、「東日流外三郡誌」という古文書があり(モーセやキリストが日本に来ていたと書かれた奇書ではあるが)、大和朝廷に対抗する東北王朝があったと書かれているし、「ここが日本の中心だ」と言わんばかりに、「日本中央の碑」という石碑が残されていたりする。
 津軽で朝廷を名乗る彼らを制圧に行く途中、湯本の地でも鉄をめぐる戦いが起こっていた。鉄剣なら傷もつく。傷ついたヤマトタケルを助けたのが、近江の国から同行したヤマナとイソナである。
 近江(現在の滋賀県)も温泉が多い。二人は、おそらく効能を知っていたのだろう。温泉を使い、幾度となくヤマトタケルたちの命を救った二人は、その恩賞として、この地を与えられたのだ。
 その後ヤマナとイソナは、湯の岳に三つの箱型の石を座し、神の加護を得て、この地を統治していった。この出来事が鶴田説として後世に残ったのかも知れない。

 「眼病に効く」と言われ、信仰され続けてきた「烏舘の水」。滝跡から湧き出る“奇跡の恵み”に、今なお人々が集まる

 烏舘不動明王参道から、かつての砦に向かう山道がある

  


 「神の加護」と言えばもう一つ、湯長谷町長倉の突き当たりに「烏舘不動明王」がある。
 烏舘は、周辺が切り立った岩石の上に作られた天然の要塞。ふもとにあった滝の奥に祠が作られ、不動様が祀られていた。
 現在では岩が崩落して滝はないが、岩の間を通って流れ出る水は、「目の神様」として広く信仰され、遠くは名古屋、東京からも水を求めて訪れる人が多い。特に、滝跡から湧き出す水は、「烏舘の水」という名で、いわきの名水五十選にも選ばれているのである。
 井戸を掘れば温泉が湧き、飲む水にも困り、大雨には決壊に苦しんだ湯本には信じられないようなエピソードだと思う。
 しかし、そんな地だからこそ、かかわる人全員が大切に守ってきた“奇跡の水”なのだ。
     (元禄彩雅宿古滝屋 斉藤英明)