Story11 湯長谷藩の菩提寺

 湯長谷藩の舘は、現在の磐崎中学校の敷地にあった。昔の城下町らしく、太平桜酒造などが軒を連ねるその道は、曲がりくねっていて細い。
 「太平の 桜を愛でて 酒を酌み」
 先人が詠んだ歌から名付けられた太平桜は、元禄時代から湯長谷藩の財源の一つとなっていた酒蔵である。
 古来より、敷地内には桜の古木があり、酒の仕込みが終わるころには、満開の桜を咲かせていたという。
 「花に酒」とは、酒飲みの言い訳のようだが、私の一番大好きな中国の詩人、陶淵明の「飲酒二十首」に出てきそうなエピソードでもある。
 さて、湯長谷藩の菩提寺は山の麓、白鳥山龍勝寺。参道から山門をくぐった左手の阿弥陀堂には、ご本尊を胎内に納めた「腹ごもりの阿弥陀尊」と呼ばれる阿弥陀如来像を中心に、弥陀三尊が安置されている。
 阿弥陀堂の建立は明治四十二年なので決して古くはないが、この小さな「胎内仏」は、作者、年代ともに定かではなく、かなり古いものだと推測されている。
 一般的に胎内仏は、亡くなった人の冥福を祈って仏像を造るとき、故人がいつも祈っていた小さい仏像をその中に納めるが、この寺の胎内仏には、「見ると目がつぶれる」という言い伝えがある。
 よほど大事な人のいわく付きなのであろうか、その秘密を解く鍵はなく、現在では堂内の安置所は閉ざされ、仏像を見ることはできない。

 不思議な言い伝えが残る龍勝寺の阿弥陀堂。湯長谷藩の領主、内藤公の菩提寺の歴史を持つが、今では静かに時の流れに身をゆだねている

 かつての湯長谷藩の舘、現在の磐崎中学校に向かう曲がりくねった登り坂。道沿いに残る蔵と塀が当時のおもかげを今に伝える

  


 さらに、この阿弥陀堂の中にはつやつやした小石が数個供えられている。この石でいぼや、吹き出物をなでると、如来の功徳で治癒すると言われていた。まさに神頼みではあるが、真に祈り願うとき、人は信じられない力を出す場合があり、精神の治癒力がないとは言えないだろう。
 「思い込み」が起こす、喜怒哀楽の神秘現象の報告は、全国にある。まして、いわき湯本は古くからの温泉町で、多くの人々が立ち寄り、または移り住んでいるので、不思議な伝承が数多い。
 来年のNHK大河ドラマは、福島県になじみのある「新撰組」であるが、「動かねば 闇にへだつや 花と水」という、沖田総司の辞世とされている句は、何の伝承もないまま「いわきの温泉町のとある神社」で発見されている。
 これとて信じられず、ありえないと思うが、絶対ないとは誰にも言えない。
     (元禄彩雅宿古滝屋 斉藤英明)